悪夢は続くよどこまでも
歩き始めて、キミタカは今いる場所におおよその検討がついてきた…
地震で倒壊した瓦礫から覗く看板の一部は、おそらくキミタカの見知った風景の残骸である。
察するに、ポコ壱番屋泉佐川店と自宅マンションの間…
自分が倒れていたのはポコ壱番屋から数百メートル離れた戸建て住宅が立ち並ぶ場所だったと思われる。
また、キミタカは無意識に帰巣本能が働いたのか、自分マンションに向かって歩いている形になる。
しかし妙だ…
人っ子一人…いや気配すら感じない…
それに、この倦怠感はなんだ?
幸い、身体に外傷などはなく、痛みもない。
また、生まれつきの弱視で視覚の源とも言える大切な眼鏡も無事なのだが…
手脚の感覚が今まで感じた事がないくらいに重苦しい…
もしかしたら、何かの病に侵されているのかも知れぬ…
そんな疑問も誰か人に会えば答えが出るだろうと、キミタカは踏ん張って歩みを進めた…
とりあえずの気がかりは自宅が無事かどうかだ…
また、自宅まで移動すれば、その道すがら誰かには会えるであろう…
何度か転びながらも、キミタカはその度に起き上がり、重い身体を引きずって歩いた…
もうそろそろ、自宅マンションが視認できると言うあたりまで移動した時、キミタカはそこに崩れ落ちた…
自宅マンションは、完全に倒壊していた…
自宅マンションは八階建てだったのだが、三階か二階あたりの階から、まるで御辞儀をするかのようにへし折れ、その頭にあたる最上階が地面につく形で完全に砕けている…
無論、キミタカの自宅がある六階も完全に崩壊している…
『ガッデム…つまり、畜生でっさ!』
キミタカはそう口走ると、その場に仰向けになり、大の字に手脚を伸ばした…
空を見上げていると幾分か落ち着いてきた。
そういえば、両親や家族は無事なのだろうか?
友人達は?
モゲはどうしたのだろう?
と言うか、この規模の地震だと言うのに人間の姿が全く見当たらないのはどううわけだ?
地域の住民や自衛隊なんかが復旧作業をしている様子もない…
この状況…原因は地震だけではないのか?
そ、そうだ!
スマホを見ればいいじゃないか!
絶対に何か情報があるはずだ!
そう思い至り、キミタカは上半身を起こし、シャツの胸ポケットにしまっていたスマホを取り出す…
しかし、液晶画面には大きな亀裂が入り、一目で役に立たない状態になっているのがわかった…
一応、色々いじくってみたが、スマホは最早死人であった…
『シィッットォォォ!!!』
キミタカはスマホを投げ捨てる。
『…つまり、クソッタレでっさ…』
そう呟くと、キミタカは思い手脚に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。
あたりはかなり薄暗くなってきている…
とにかく、人に会わねば…
キミタカがそう思って歩き出そうとした瞬間、ガラガラと瓦礫が崩れるような音がした。
それは先程、スマホを投げた方向から聞こえた。
キミタカがそちらに目線を向けると、5メートルも離れていない位置で瓦礫の上に女性が立っていた…
露出の多い服装をしているので、まだ若いようたが、大きな怪我をしているのか、頭から全身が血塗れになっている…
また、あたまをたれてうなだれ、なんだか苦しそうに見える…
また、その女性はキミタカが投げたスマホを握りしめている…
キミタカは人に出会えた喜びを感じるとともにマズイと考えた…
もしや、この女性の流血はオレが投げたスマホが命中した事により発生したのではなかろうか?
それなら流血の責任はオレにあるわけで、オレはその責任を取らねばならぬ!
とりあえず女性を救助せねば!
キミタカはそんな事を考え、女性に声をかける。
『あ、あのう…アンタ、大丈夫かでっさ?』
その声に、女性はビクンと脈打つように身体を揺らして反応すると、ゆっくりと頭をあげる…
『な、えっ?あっ?』
女性の顔を見たキミタカは情けない声を漏らした。
女性の顔面は、そこにあるはずの両の目が、まるで何かに削り取られた…いや、噛みちぎられたかのように喪失している。
その傷は大きく、鼻筋にまで達したいた!
キミタカは思考は、想定外のことが起こると思考が停止する癖を発症してしまった…
女性は、無傷で残された口を大きく開く…
まるで、これから獲物に食いつかんとする猛獣のように…
それは一瞬であった!
猛獣のように大きく口を開いた女性とキミタカの間には5メートルほどの距離があったが、女性が重心を前に傾けたと見えた瞬間、キミタカは女性に組み付かれていた。
女性とは思えぬ凄まじい勢いでキミタカは瓦礫だらけの地面に押し倒される!
ゲフッ、と衝撃で息を漏らす。
また、女性はそのままマウント状態になり、凄まじい腕力でキミタカの両肩を抑え付ける!
キミタカの両肩はミシミシときしみ、身動きができない!
女性はバキバキと音を立てながら首を伸びるだけ伸ばし、両方に頭を振ると狙いを定めたかのようにピタリと動きを止めた…
女性は、キミタカの頭に食いついた!
『うあああ〜!!』
キミタカの悲鳴などまるで聞こえていないかのように、女性は食いついて離れず、キミタカの頭蓋骨はバキバキと音を立てて軋む!
歯が食い込む感覚が伝わり、皮膚が裂け、血が滲み出すのを感じる!
キミタカは、肉食の猛獣に囚われ食糧にされる草食動物の気持ちとはこれかと、死を覚悟した…
思えば短く報われぬ人生だったが、それでもまだもうしばらくは生きていたかった…
せめて、一度だけでも女性と恋愛してみたかったなあ…
どういうわけか、痛みを全く感じないのは幸運かもしれぬ…
キミタカは諦めの中で、静かに目を閉じた…
が、キミタカは頭の中で何かが弾けるような感覚をおぼえ、それと同時に、どこからか、何かが、自分の身体の中に流れ込んでくるように全身に得体の知れない力が漲る!
また、漲る得体の知れない力は、キミタカの心を劇的に変化させる!
『ぬうう…このクソビッチ、つまり変態女め!貴様などにこのオレの大切な大切なおヘッドを美味しく頂いかせるわけにはいかないでっさ!』
キミタカはそう口走りながら、上半身を起こそうと全身に力を込める!
すると、両肩を抑える女性の腕がバキィッと音を立てて真っ二つにへし折れた!
肩と腕の自由を取り戻したキミタカは己の頭にかぶりついている女性の頭を両手で掴むと、両側からギリギリと圧力を加える!
女性の頭は万力で締め上げられるようにギリギリときしむ…
『ぬうううう〜!!』
キミタカは漲る力の全てを両手に集中させ、そのまま女性の頭部を締め上げる!
バキィッ!!バキバキ!
女性の頭蓋骨はついに粉砕され、食い込む女性の歯から力をが抜ける…
キミタカは女性の頭を掴んだままの状態から、それを放り投げた!
女性の身体は中を舞い、数メートル先に音を立てて落ち、そのまま動かなくなった…
それを見届け、安堵したキミタカだったが、周囲から瓦礫が崩れる音が聞こえ、キミタカは目だけをキョロキョロと動かして状況を確認する…
キミタカは数体の人影に囲まれている事を確認した…
その人影は、先程の女性と同じような凄まじい殺気をキミタカに向けていた…
第3話へ続く
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