【ネット小説】ゾンビの王に俺はなる!|序章【ゾンビ思う故にゾンビあり】第1話 変質者ではオレはない!コロナ許すまじ!!
西暦202×年5月某日…
キミタカは自宅で憤慨していた…
若干24歳にして15年ローンを組んで購入した中古マンション、その一国一城の主たるキミタカは在宅中に大半の時間を過ごしている生活感溢るるリビングにて、スマホをにぎりしめ憤慨している。
その理由は…つい1分ほど前に遡る…
キミタカはとある店舗に電話した…
『お電話ありがとうございます!ポコ壱番屋泉佐川店でございます!』
明るい女性店員の溌剌とした声に、キミタカは好印象を受けた。
『あ、あの、配達をお願いしたいのやが…』
それを受けた女性店員の声色は曇る。
『申し訳ございません…現在新型コロナウイルス対策として、配達は停止となっておりまして、店頭でのテイクアウトのみの対応とさせて頂いております』
な、何…!?
先程受けた好印象は即座に打ち消された。
世間は新型コロナウイルスの影響で外出自粛が常識化されており、キミタカとてそれは十分に理解し、外出を自粛しているのだ。
しかし、ポコ壱番屋のカレーは旨い!
今、食べたいのである!!
『いや、ちょっと待って欲しいでっさ…現在の状況下、テイクアウトのみの対応は理解できるが、それではオレはテイクアウトする為に外出しなければならない…外出自粛の事はどうなのでっさ?』
キミタカは引っかかる事について質問してみたが、女性店員は次のように答えた。
『当店では厳重な感染対策でお客様をお迎えしておりますので、安心なさってご来店下さい』
女性店員はキミタカの質問に対し、マニュアル的な対応でもって答えた。
『ああ、よくわかったでっさ!なら、フィッシュフライカレー300gを2辛で…無論、野菜のトッピングは欠かせないでっさ!』
キミタカは故意に不機嫌な口調で女性店員に注文する。
女性店員は冷静に注文を復唱し、ご迷惑をおかけしますとキミタカに声をかけたが、最早キミタカの耳はそれを受け付けなかった…
興味はないが寂しさを紛らわす為につけっぱなしのテレビからは、どこかだわからないが震度3か4くらいの地震が発生し、『南海トラフ地震』との関連がどうのこうのと言うアナウンサーの声が聞こえているが、いつ起こるかわからない地震より、今はカレーである。
女性店員へのイラつきが完全な理不尽なのはわかっている。
女性店員が悪いのでも、ポコ壱番屋泉佐川店が悪いのでもない。
ただ、コロナウイルスの為に不自由になった生活に対する状況がこのどうしようもないストレスを生み出すのである!
おのれコロナめ、許すまじ!
キミタカはそんな事を思いながら、ポコ壱番屋泉佐川店に向かうべく、使い捨てのサージカルマスクを手に掴む…
重い鉄製の扉を閉め、しっかり施錠するとキミタカはサージカルマスクを装備する。
キミタカは生まれつき弱視で四六時中『眼鏡』を装備せねばならない、所謂『万年眼鏡』である。
その上、マスクで顔半分を覆わねばならないので、それだけで非常に心地悪い。
更に、マスクの隙間から漏れ出るおのれの息が眼鏡のレンズを曇らせるのがストレスを膨張させる…
キミタカは自動車運転免許を所持しているが自動車はもとより、原付も、自転車すら所有していない。
ポコ壱番屋泉佐川店までのおよそ3キロの道程を移動する手段は『徒歩』以外にない…
眼鏡を曇らせながら徒歩にて移動を開始するキミタカだった…
時刻は正午すぎ、平日であるにも関わらずキミタカが自宅にいたのは、勤めている会社がコロナウイルスの影響で週に一度臨時休業しており、今日がその日に当たっている為だ…
それにより、収入もダウンしているのが更にキミタカのストレスになっている…
しかし、こうして外出して外を歩いてみると意外に出歩いている人間は多いが、やはりみなマスクを着用している。
キミタカは変わってしまった街の雰囲気を肌て感じながら、何気なく空を見上げた…
『んん…?』
空を見上げたキミタカは思わず息を詰まらせた。
空の色が…
いや、雲の色が異様である…
鉛色が赤みがかったような今まで見た事もないような異様に分厚い雲が空一面を覆っている。
キミタカは何やら嫌な予感がして、足を早めた…
ポコ壱番屋泉佐川店に到着した際、キミタカはハアハアと息を切らせいた。
その荒い呼吸に合わせて眼鏡が曇る。
まだ若いとは言え、マスクをつけたまま早足で数キロの徒歩移動は十分にキミタカの体力を奪った。
しかし、ポコ壱番屋泉佐川店は目の前である。
キミタカは眼鏡を曇らせながら入店する。
『いらっしゃいませ!』
女性店員が明るく元気に応対する。
『テイクアウトの予約をしていた者なのやが…』
キミタカはハアハアと息を切らしながらそう名乗るが、女性店員は…
『あの、お名前をお伺いしてよろしいでしょうか?』
と返してくる。
キミタカはハッとした。
そういえば、さっきの電話注文で自分は名前を言っていない…
キミタカは名前を言っても注文と繋がらないかも知れないと思い…
『あ、フィッシュフライカレー300g、2辛で野菜のトッピングを注文した者なのやが…』
と、名前の代わりに注文したもので答えた…
女性店員はハッとして、先程のお客様ですねと商品を取り出す。
『私もお名前聞き忘れてしまいまして、申し訳ありません…お会計1189円になります』
キミタカはハアハアとマスクを脈打たせ、眼鏡を曇らせながら腰のポケットから財布を取り出そうとするが…
な…無い!
財布がない!
これは一大事である!
ポコ壱番屋ならば、スマホ決済も可能であろうが、完全現ナマ主義のキミタカにそんな用意などあるわけが無い!
また、キミタカには、こういう予期しないアクシンデントに見舞われた際、しばらく思考が停止してしまうという性質があった…
『あの、お客様?お会計…?』
会計を催促する女性店員の言葉が更にキミタカを圧迫した。
キミタカは言葉が出てこず、荒い呼吸は激しくマスクを脈打たせ、眼鏡を真っ白に雲らせる!
それに合わせて女性店員の顔色が変わっていく…
女性店員は、明らかにキミタカを『変質者』として見始めていた…
『あ、あの…お客様?』
女性店員の腰は完全にきひきはじめており、その目は奥にいる男性店員に助けを求めていた…
それを察したのか、いかにもスポーツマンの学生バイトらしき屈強な体つきの男性店員が眼光鋭くキミタカに対し間合いを詰めてくる…
キミタカもそれを察し、状況を説明しようと思うのだが、屈強な男性店員から発せられる覇気に気押され、ただ喘ぐような声しか出せないでいた…
『キミティァキャ!おみゃえ何してるんよ!?』
大ピンチのキミタカの耳に聞き覚えはあるが、聞き取りづらい声が響いた。
『あ、モ、モゲ…』
聞き覚えはあるが聞き取りづらい声の主は、中学からの友人、ヒデミツ、通称『モゲ』だった…
『ちょっ、おみゃえな、誰ぎゃモゲにゃよ!?』
モゲは、普段からモゲと呼ばれているにも関わらず、モゲと呼ばれるのが好きではないというか、納得していない。
故に、モゲはキミタカの左肩を肩パンする。
その痛みでリラックスしたキミタカはようやく人間らしい理性を取り戻した。
『あ、カ、カレーを注文してテイクアウトに来たのやが、ウォレット…つまり、お前にもわかりやすく言えば、財布を忘れてしまったのや…』
キミタカはきっちりと状況を説明できたが、その説明はモゲをイラつかせた。
『何がお前にもわかりやすくや!財布忘れて焦ってただけやろ!さっきからちょっと見てたけど、お前単なる変質者やったからなあ!それで助けたったのによ!』
モゲは普段は聞き取りづらいが興奮すると滑舌がよくなる体質であり、その興奮のままにキミタカの尻に軽く膝蹴りを入れた!
『な、変質者?』
モゲの言葉に反応したキミタカだったが、キミタカに向けられた店員達の目つきも無言でキミタカを変質者扱いしているのも同時に感じた…
これは、絶対に捨ておけぬ否定すべき理不尽に着せられた濡れ衣である!
キミタカは深く息を吸い込むことによって、たぶん大気中に漂っていると思われる目に見えもしない精霊達を体内に取り込み、全魂込めて否定する!!
『変質者ではオレはない!!!』
大丈夫だ、これだけはっきりと否定したなら、誰が自分の事を変質者だと思うだろうか!?
見ろ、モゲも店員達も真実を叫んだ我が言霊の前に何も言い返せず棒立ちになっているじゃないか!
と、キミタカは勝利を確信しながらもカレーの支払いをどのような形で行うかに思考を巡らせようとした…その刹那!!
ガタガタガタガタ…
周囲から振動音が聞こえ始める…
その振動は…地面から伝わってきているようだ…
ドドドドドド…
脚に伝わってくる確かな振動…それは徐々に激しさを増してくる!
じ、地震…!?
そう理解した瞬間…
ドドドドドドドーン!!!!!!!!!!!
落雷の直撃を受けたかのように思える衝撃を感じ、キミタカの意識は途絶えた…
意識を失う直前、キミタカの脳裏によぎったのは、ホカホカと湯気をあげる300g 2辛、無論、野菜がトッピングされた美味しそうなフィッシュフライカレーの映像だった…
第2話に続く
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